陶芸のまち、益子から故郷へ移住 決め手は「子育て環境」 菅原洋一・崇子さん

maruyo eye catch

陶芸のまち、益子から故郷へ移住決め手は「子育て環境」

「奥州に戻って来たばかりの頃じゃ考えられないくらい楽しいですよ、今」

そういって笑うのは、園芸・陶芸・喫茶の店「マルヨウ」を営む菅原洋一さんと崇子さん。2006年、益子焼で有名な栃木県益子町から洋一さんの地元、奥州市へUターンしました。

「マルヨウ」はもともと、洋一さんの両親が営む園芸とせとものの店。「園芸マルヨウ」に隣接する「せとものマルヨウ」の店舗をリノベーションし、2011年に洋一さんが手がける「陶房マルヨウ」を、2014年には崇子さんが「喫茶マルヨウ」をオープン。園芸、陶芸、喫茶という3つの部門が隣接する現在のカタチになりました。

Uターンする前は、益子の製陶所に6年間勤務していた洋一さん。「若い頃、『いい器』がほしいと百貨店に行ったものの、とても手が出せる値段ではなく諦めたことがあります。そんな苦い経験から、若い人にも『手づくりのいいもの』に触れるきっかけを提供したい、と思ったのが陶芸に携わるきっかけでした」と話します。

洋一さんの制作するカップ。ひとつひとつ手作業で制作するため同じ柄でも微妙に風合いが異なる。

洋一さんの制作するカップ。ひとつひとつ手作業で制作するため同じ柄でも微妙に風合いが異なる。

妻の崇子さんとともに益子に移住し、陶芸の道を歩み始めた洋一さん。子どもが生まれ、今後の子育てのビジョンを話し合ううちに、故郷である岩手への移住が浮かんできたと振り返ります。

「移住を決意したのは上の娘が幼稚園に入る年齢になり、妻が2人目の子を妊娠した時期でした。益子は自然豊かで陶芸に集中できる場所でしたが、益子で子育てをするより両親のいる奥州市の方がこれからの私たちにとっていい環境になると思いました」

奥州市ののんびりした空気が子育てに最適と話す洋一さんと崇子さん。

奥州市ののんびりした空気が子育てに最適と話す洋一さんと崇子さん。

2006年、奥州市に移住し、新しい生活を始めた菅原さん一家。しかし、益子時代と同じように陶房や喫茶店で働きたくても勤め先がありません。洋一さんと崇子さんは地元の企業に就職し、会社員として働き始めます。しかし、仕事と子育てで慌ただしく過ぎる毎日を送るうち「これからもずっと、この生活でいいのだろうか」と思い始めました。

「はじめは小さな違和感でした。けれど職場が不況のあおりを受けたことでその思いが大きくなり、今後を真剣に考えるようになりました。そんな中、妻や両親が『陶芸をもう一度やったら』と後押ししてくれたんです。それで自分でも覚悟がつきました」と振り返ります。

陶芸の再スタートと陶器の魅力を味わえる喫茶店の開業

こうして2011年、洋一さんは「陶房マルヨウ」を構え、5年間手を休めていた作陶活動を再開。陶器の販売と同時に一般向けの陶芸教室も開きます。とはいえ、当時の陶房は、せともの屋を営んでいたときの什器や内装がそのまま。訪れるのは園芸店に買い物に来る常連さん程度でした。南部鉄器や岩谷堂箪笥など工芸品の製造が盛んな奥州市ではありますが、陶芸への反応は厳しく、一大産地・益子との大きな違いを肌で実感します。

「このまちには陶芸のニーズがない」 と、一時は失望しかけたという洋一さん。

一方で崇子さんは、陶器の良さを伝えるには、手に取り実際に使ってもらう事が大切と考えていました。陶房の開釜から3年後、崇子さんは益子時代からの夢だった喫茶店をオープンします。するとそれまで閑散としていた陶房にも少しずつ変化が現れ始めます。

「喫茶に来たお客さんが陶房の見学もしてくれるようになって、陶芸に興味を持つ人が増えてきたんです。嬉しかったですね。今まで陶房に顔を出してくれるのは園芸店に来るおじいちゃんやおばあちゃんくらいだったのに、若い人たちも来てくれるようになったんですから(笑)」

陶芸教室では手びねりによる初心者向けコースから「ろくろ」を使った本格的なコースまでレベルに合わせて体験できます。

陶芸教室では手びねりによる初心者向けコースから「ろくろ」を使った本格的なコースまでレベルに合わせて体験できます。

こうして生まれるつながりを「喫茶店を経営する楽しみのひとつ」と話す崇子さん。「お店に来てくれるお客さんは、魅力的でユニークな人が多いんです。ちょっとおせっかいかもしれないですけど、私がつなぎ役になることで輪が生まれたり、広がったりしていくのを見るのがすごく楽しい」と笑顔を見せます。

そんな崇子さんの気さくな人柄に惹かれ、「喫茶マルヨウ」は幅広い世代の人々が集う「まちのハブ」になりつつあります。平日の午後には下校中の小学生たちがガラス越しに手を振る姿も。閑散としていた店の前の通りも、少しずつ賑わいが生まれてきました。

喫茶スペースでは苔玉ワークショップの講師を務める洋一さんの母、聡子さん。終了後は崇子さんの淹れるコーヒーで一息。

喫茶スペースでは苔玉ワークショップの講師を務める洋一さんの母、聡子さん。終了後は崇子さんの淹れるコーヒーで一息。

「マルヨウのよさは喫茶店だけじゃないところ。陶芸をきっかけに喫茶店に来てくれる人もいるし、喫茶店のお客さんが園芸店にも通ってくれるようになったりと、それぞれにいい影響を与えあっているところが強みだと思っています」と洋一さん。陶芸と喫茶店というお互いの夢を奥州で実現し、Uターンしたばかりの頃には想像がつかなかった、ワクワクでいっぱいの暮らしを満喫するふたり。その一方で、「喫茶、陶芸、園芸というそれぞれの魅力を持つマルヨウを『作り手と使い手をつなぐ場』としてもっと発信していきたい」と今後の抱負を語ります。

そのためにも「奥州という地域の魅力も発掘し、拡げていきたい」と考えているふたりは、地域のカフェや作家と連携したワークショップも企画中。 マルヨウが生み出す輪は店を飛び出し、少しずつまちへと広がっています。

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