農と人をめぐる #1 ~奥州市役所職員に聞く地域おこし協力隊

農と人をめぐる

6/22から募集を開始した奥州市の地域おこし協力隊。

今回の募集では奥州市が力を入れているプロジェクトのひとつである「奥州市地域6次産業化」を中心となって推進できる人材2名を求めています。
市はこの地域6次産業化プロジェクトを、近い将来に民間のプロジェクトとしてひとり立ちできるよう、組織づくりやビジョン作成の段階から意識して取り組んできました。

これまで市役所内の担当として地域6次産業化を推進してきた奥州市総務企画部元気戦略室の本明さんと上條さんに、これまでの地域6次産業化と、プロジェクトに地域おこし協力隊を迎え入れることになった経緯をお聞きしました。

奥州市役所奥州市総務企画部元気戦略室の本明(左)さんと上條さん(右)地域おこし協力隊を様々な面でサポートします。

奥州市役所奥州市総務企画部元気戦略室の本明さん(左)と上條さん(右)地域おこし協力隊を様々な面でサポートします。

「6次産業化」とは”農業や水産業などの第一次産業が食品加工、流通販売にも業務展開している経営形態”のこと―Wikipedia参照
そもそも奥州市は単に農産加工品の製品開発をする6次産業化という狭義ではなく、奥州市の基幹産業である「農業」を地域の2次・3次産業との異業種連携により活性化させることが地域の発展に繋がるという、広義の考え方の6次産業化ということで、「地域6次産業化」という呼び名でビジョンの策定を始めたんですよね。

 
(以下、敬称略)

本明 はい、そうです。平成25年の4月からプロジェクトを推進するための「地域6次産業化ビジョン」を作るチーム員を探すことを始めました。
その際に、役所的な…例えば関係機関のほうから誰かを推薦して頂いて委嘱するようなやり方よりも、私たちが地域に入って(地域6次産業化に対して)想いの強い方を探したほうがよいのではないかということになりました。
それで3ヶ月くらいかけて、生産者や2次産業、3次産業をされている方々にお会いしました。
その後、この人だったら良いのではないかというコアメンバー6名に集まって頂いて、ビジョン策定チームとして組織しました。ビジョンの作成が始まったのが9月、それからチーム員にビジョンの内容を検討してもらい、市に報告されたのが1年後の平成26年9月です。

策定したビジョンをリーダーの後藤大助さんが市長へ手渡しました。

策定したビジョンをリーダーの後藤大助さんから市長へと手渡されました。


―民間のメンバーが主体となってのチーム員組織ができ、ビジョン策定がされたということですが、今現在、市はあくまでチーム員のバックアップという立ち位置ですか?

本明 協働という形を取って市と民間の両輪で進めてきました。ビジョン策定チーム員には市職員もおりましたので。
そこから提出されたビジョンを市で検討し、正式に策定されたのは今年の1月です。

―今年の1月に策定ということは、昨年度に地域6次産業化プロジェクトの一部として行われた「おやつフェスティバル」や奥州市産食材を使った料理コンクールなどは、どういった位置づけだったのでしょうか?

本明 そもそも25年度の取り組みは、ビジョン策定に向けたミーティングや視察が主だったのですが、チーム員の方たちはビジョンだけではなくて実際に事業をしてみたい、したほうがよいだろうと考えていました。
そこで26年度には、基本理念である「食の黄金文化・奥州」をもとに、ビジョン策定前のトライアルプロジェクトとして「おやつフェスティバル」や奥州市産食材を使った料理コンクールなど、計13本の事業を行いました。

おやつ

―13本!それはすごい数ですね。
トライアルプロジェクトについて、市内外からの反応はいかがでしたか?

本明 「おやつフェスティバル」は市産食材を使ったおやつをテーマに、33店舗が出店したイベントで、市としても初の試みでした。予想をはるかに超えて、ファミリー層を中心に4,000人のお客様が来場しました。「食の黄金文化・奥州」のロゴマーク募集では、市内外から58作品の応募がありましたね。良い事業だったものについては今年度も継続しようと考えています。

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―トライアルとビジョン策定が終わり、これから本格的に始動していく段階ということですね。これまでプロジェクトを進めてこられた中で、地域6次産業化という観点での地域課題はどんなものだと感じていますか?

上條 例えば、「奥州市産食材を使った料理コンクール」は、リニューアル前は「前沢牛を使った料理コンクール」でした。
正直なところ、応募者などが外から見たときには「前沢牛料理コンクール」と題したほうがピンと来る。そして「前沢牛」でピンと来ても奥州市とは繋がらない。この辺はかなりジレンマを抱えています。
同じように、「江刺リンゴ」が奥州市にあるということを外の人は知らないんですね。ここに住んでいる分には気にならないと思いますが、他に出ていって選んでもらう段階になったとき、「奥州市」という名前が生きてこない。
もちろん、今あるブランド(前沢牛、江刺金札米など)の強化は並行して進めつつも、同時に「奥州市」という名前と食材を結び付けた形で全体の知名度を上げていくということが必要だと感じています。

全国の高校生らが参加した食の黄金文化・奥州料理コンクール

全国の高校生らが参加した食の黄金文化・奥州料理コンクール


―その辺は、意外と今まで誰もやってこなかったことなのかもしれませんね。

上條 ええ。ですから、市外の人に「奥州市といえばあんな美味しいものがあって、よい加工品があって、奥州市でできた商品であれば間違いない」と思わせるところまで持っていかないといけないんじゃないかと思っています。
課題について大きく分けると、農業を元気づけるための商品開発、流通などの地域6次産業化と、奥州ブランドを作り上げて奥州市の知名度を底上げする、この二つがあって、これらを両輪で進めていくことが重要だと思っています。

―なるほど。

上條 しかも奥州市には優良な加工企業がたくさんあります。これらの企業が農業と寄り合って地域6次産業化が進められたら、地域産業にも市全体にも活力になるだろうというのが狙いです。

 
―今のお話に関連すると思うのですが、地域おこし協力隊の募集要項の主な活動内容に”奥州市の食と農に関する情報発信”とありますね。これはつまり”奥州市としてのブランド価値を高めるような情報発信”を期待しているということですね。

上條 そういうことです。

 
―より地域6次産業に寄った形で発信してほしいと?

上條 いえ、そこはそんなに限定しなくていいと考えています。いろんな資源について情報発信して頂いて、市のPRになればと。
 
本明 外からの目線、若者の目線からの情報発信も期待しています。

 
―協力隊の主な活動内容にある”活動推進組織(NPO等)の立ち上げ”について聞かせてください。

上條 今現在、地域6次産業化を推進するための事務局は市職員である私たちが行っています。ただ、未来永劫ずっと市役所で引っ張っていけるかというと、それがどんな事業でもなかなか難しい。
町おこし組織は各地域でさまざまな方針で実施されていますが、行政が主導しているところは続かないという側面があります。
特に地域6次産業化は産業に関わる部分なので、民間の方々と実践の流れを作っていきたい。
そこで、民間の組織としてNPO等を立ち上げて、市役所的な制約がある程度外れた格好で、地域6次産業化を推進する第2ステップの形が作れればと。
その第2ステップの中心に、核となってはまって頂けるような方に、地域おこし協力隊として来て頂きたいと思っています。

本明 ゆくゆく定住を視野に入れたときに、そういった組織が就業等の受け皿になれば、ということも考えています。組織運営をする上で、ビジネスモデルになることも在任期間中に計画してほしいですし、例えばNPOではなく株式会社の形で、経済活動が伴うことで地域6次産業化プロジェクトが続いていくということも考えられると思います。
 
上條 ちょっと理想論かもしれませんが、実はそこまで的を絞っての募集要件になっています。

 
―では、同じく主な活動内容についてお聞きします。”農業者と加工企業、観光業、飲食業などとの連携による奥州市の食と農に関するプロジェクト企画・実施”とありますが、もしおふたりが地域おこし協力隊として採用された場合、奥州市でどのような事業をやってみたいですか?

本明 そうですね、うまく情報発信をしながら、首都圏の消費者と生産者を繋げるような役割を、利益が伴う形でできたらと思いますね。あとは地元の方に地元産の物を食べてもらえるような意識醸成や食育などですかね。
 
上條 私は豆太郎(奥州市産の大豆を使った納豆)の商品開発に関わった経験があって。
実は加工品も含めて、奥州市のものを選ぼうと思えば選べる状況にあります。ですから、市産のものを食べて誇りに思える、市外の方からうらやましがられるような奥州市にしたいと思っています。
そのためには、「市産の加工品」という選択肢が存在し続ける必要がある。今ある商品が続くように大事にしていくということも重要です。
そういった市産のものを率先して選ぶような消費者グループを育てるようなことをしたいですね。
あとは、間接的かもしれませんが、奥州市産のおみやげを一ヶ所で買える場所がほしいなと。

 
―それはいいですね!ほしいです!

上條 奥州市はいろんなおみやげがあるんですが、一堂に会していて選べるような場所がないのが残念だなと思います。
一ヶ所に集めることで市としてのブランド力も上がるのではと思いますが、いかんせん点在している状況なので、なかなかポテンシャルが感じられない。
地域おこし協力隊の方にはそういった“気づき”を持ってもらって、そこから展開をしてほしいですね。

 
―少し視点を変えてお聞きします。
地域おこし協力隊の失敗例として、地域住民の課題・問題解決の為に来たのに、本来の目的を見誤った活動をしてしまうケースが多いのだそうです。
そこで、おふたりがこれまで地域6次産業化に取り組まれて来た中で、地域住民からはどんなプロジェクトの実施を期待されていると感じますか?

上條 もともとは農業を元気づけようと始めた事業ですし、農業者からの「何か打開策はないのか」という漠然とした期待は感じています。
こちらもそういった期待に直接的に応えるには何がいいか、トライアルプロジェクトを通じて様々な切り口で試してみたという段階ですね。

 
―具体的に、地域おこし協力隊に着任後、一番最初にやる仕事はどんなことになりますか?

本明 着任から半年くらいは、私たちと行動を共にして市を知ってもらうことになりますね。
そこでいろんな人に会ったり、事業を見てもらうということですね。半年後以降は次年度に向けた事業を一緒に検討していく、NPO等の民間組織の立ち上げ準備を始めるという展開になると思います。

 
―細かいことですが、今回の地域おこし協力隊は市との雇用契約がありませんが、勤務時間の規定がありますね。これはどう捉えたらいいでしょうか。

上條 これはあくまで目安の勤務時間で、必ずしもこの限りではないですね。
その代わりに、ある程度、日々の活動レポートを提出してもらうようなことはあるかと思います。

 
―分かりました。最後になりますが、一緒に働く地域おこし協力隊2名はどんな人がいいですか?

本明 ぶつかってもいいから、柔軟な発想をお持ちの方ですかね。

 
―それは、本明さんとぶつかってもいいから、ということですか?

本明 うーん、そうだね・・・ひとりはそういう人で・・・
 
上條 いきなり弱気になりましたね!

 
―ふたりともぶつかって来ると大変だと(笑)上條さんはいかがですか?

上條 とにかく「やりたいことがはっきりしている人」ですかね。
自分がやりたいことについて強い思いを持っている人と働いてみたいと思います。

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