「違う土地や違う分野の職から来た人たちをよく『よそ者』と呼びますが、彼らは私たちとはまったく違う視点を持っていて、新しいアイデアと揉め事を持ってくる。OIGENはそれを受け止める風土が昔からあるんです」と笑うのは、及源鋳造株式会社5代目社長の及川久仁子さん。
創業から160年以上の歴史を持つ同社は、鋳物独特の質感や美しさ、素材の強さなどといった鉄器本来の魅力を広く伝えたいと、海外進出や独自技術の開発に挑戦し続けています。伝統的な職人技を継承することに加え、最新技術やデジタル化を駆使し、精度の高い商品の製造を可能にしてきました。
民芸品というイメージの強い南部鉄器を、現代の暮らしにも合うツールに変化させた「OIGEN」。そこには「よそ者」の存在が大きく関わっています。
たとえば、江戸時代から伝わる錆止め技法「金気止め」から、より安定的に処理できる技術を生み出したのは、エンジニアから転身した職人でした。安定した高温度で焼き、高品質の酸化皮膜を覆わせることで、塗装しなくても錆びにくい鉄鍋を実現。無塗装のため、使用する度に油が馴染み、さらに錆びにくく育っていくのが特徴で、同社独自の技術として平成15年に特許を取得しました。この技術を使った「NakedPanシリーズ」は評価が高く、国内外で活躍する地元のフレンチレストラン「ロレオール」のシェフをはじめ、多くのプロにも愛用されています。
また、2015年に直売所のリニューアル。その中心になったのも、横浜からIターンし入社した「よそ者」です。店舗を作る際には、空間デザイナーや店舗設計業者に依頼するのが一般的。しかし、ショップのすべてを自社でディレクションし、作り上げました。「南部鉄器がより身近で、暮らしにとけ込むイメージができる」と、これまでより若い世代や遠方から訪れる方も増えたといいます。
「育った土地が違えば考え方も違います。お互いの違いに感動しながら質の高いものづくり・ブランドづくりに生かしていければと思っています」と「よそ者ならでは」の力に期待する及川さん。「当たり前」を見直す価値観や、分野外の技術・知識などを従来の風土にとけ込ませることを大切にしてきました。
OIGENのコンセプトである「愉しむをたのしむ」を軸としてマーケットを切り開き、南部鉄器の質を高めること。家庭用品としてだけでなく、レストランでのシェアをさらに拡大することが今後の課題、と及川さん。海外からの注目度も高いOIGENの鉄器はこれからも多くの人を魅了していきます。