今、全国で有効活用されていない田の割合は全体の3割を占めると言われています。日本有数の米どころである奥州市も例に漏れず、近年は耕作をやめた田や、大豆や牧草などを栽培する転作田が多く見られます。そんな中、休耕田を復活させ、また米を作りたいという農家の願いに応えるのが、「株式会社ファーメンステーション」。発酵技術を用いて米からエタノールを製造しています。
代表の酒井里奈さんは東京生まれ東京育ち。奥州市が行っていたこの事業にコンサルタントとして参加したのち、事業そのものを同社で引き継ぎました。縁もゆかりもない奥州での事業を引き受ける決め手となったのは、「地元の人とのつながり」だったと話します。
「元々は、東京で発酵技術のコンサルタントをしようと考えていました。市役所の方や農家さんなど、価値観を共有できる人が奥州にいて、応援してくれたことが大きかったですね」
事業の立ち上げ当初は、ガソリンの代替エネルギーとしての利用を想定していた米エタノール。しかし実証実験の末完成した製品の価格はなんと1ℓ2万円以上。高価すぎる製品の使い道に頭を悩ませていた時、打開策として挙がったのが化粧品原料としての可能性でした。
「米エタノールは一般的な消毒用エタノールと違い、刺激がなく香りがまろやかです。特に当社の原料は無農薬・無化学肥料のお米で、いつ、誰が、どこで田植えをして稲刈りをしたか、トレーサビリティがある。肌に直接触れる化粧品の原料として、安心して使ってもらえると思いました」
こうして化粧品原料のほか、昨年は米エタノールを使用したアウトドアスプレー(虫よけスプレー)を開発するなど、自社商品も着々と増えています。エタノールを抽出した後に残る「米もろみ粕」も無駄にしません。栄養成分がたっぷりの米もろみ粕を洗顔石けんに配合。オンラインショップのほか都内を中心とした店頭でも販売しています。鶏のエサとしても利用され、米もろみ粕を食べた鶏の卵はクセがなく素朴な味わいで、地元で人気の卵です。
企画や開発は東京オフィス、米エタノールの製造は奥州ラボ。2つの拠点を行き来する酒井さんの右腕としてラボを管理する渡辺奈津子さんは、Uターン後同社に入社。「ラボが地域の人にとってどんな存在になれるかが、今後のテーマ。ワークショップで発酵に興味を持ってもらったり、若者の仕事の選択肢になれたら」と話します。
米と人を起点に、地域課題の解決に取り組む新しい産業のカタチ。これからも同社のチャレンジは続きます。